彼女はコムソモール・ヤチェイカの委員である。
――全く場合が違う。ね、カーチャ、考えてくれ、僕たちの周囲に君をおいてどんな知的な女がいる? くだらない俗人女《メシチャンカ》か頓智一つ持ち合わせない職場の棒杭かじゃないか! そういう無智な圏境で――カーチャ!
カーチャは腕時計をのぞき、それから放ぽり出されている書類入鞄をひろって、フェージャにわたしながら云った。
――さ! この報告は今夜七時までに書記局へ行ってないじゃならないものよ。……
そして一寸皮肉に笑って、
――「事務は事務ですよ!」
――とてもいい※[#感嘆符二つ、1−8−75]
日本女の後で一つ椅子にかたまってかけている二人のピオニェール少女が顔をほてらして熱心にうなった。フェージャ自身がついさっき、「事務は事務ですよ」と云ったんだ。急に母親が死んで村へかえらなければならない若いコムソモーレツが金の融通を工場委員会へ頼んできたのに、時間が五分過ぎてることを理由にはねつけて、官僚主義を発揮したばかりのところなのだ。
日本女は時計を見た。もう十二時すぎてる。だが演る者も観るものも疲れを知らずユサリともしない。この
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