三月八日は女の日だ
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)駛《はし》る

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)――|ない《ニェート》!

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)クフミンストル※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]
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 モスクワじゅうが濡れたビードロ玉だ。きのうひどく寒かった。並木道の雪が再び凍って子供連がスキーをかつぎ出した。ところへ今夜は零下五度の春の雨が盛にふってる。どこもかしこもつるつるである。
 黒くひかってそこへ街の灯かげをうつす大都会、地球の六分の一を占める社会主義連邦の首府モスクワの春の泥水をしばいて電車はひどい勢で走っている。今夜は特別な日なんだ。三月八日は世界無産婦人デーである。各区の勤労者クラブでいろんな催しものがある。だから急がなけりゃならない。
 東南へ向って駛《はし》る電車のどんづまりで日本女は車を降りた。三四人、赤い布《プラトーク》をかぶった女も下りたが、忽ち散ってしまって、日本女は自分の前に雨びし
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