ょびしょの暗い交叉点、妙な空地、その端っこに線路工夫の小舎らしい一つの黄色い貨車を見た。その屋根でラジオのアンテナが濡れながら光っている。空地の濡れた細い樹の幹も光っている。あっちを見ると真黒い空の下で大きな白文字が、
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КОМУНАР《コムナール》
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外套の襟を立てて労働者がやってきた。日本女は自分の立ってるところから大きな声で呼びかけた。
――タワーリシチ! クフミンストル※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]倶楽部ってどこだか知りませんか?
――そこの空地を突切ってずっと行って三つめの横丁を左に入ると橋がある、その先だ。――
――畜生《チョールト》!
警笛を鳴らさずかたっぽのヘッド・ライトをぼんやりつけたトラックがとんできた。
日本女は、寂しい歩道をときどき横に並んでる家の羽目へ左手をつっぱりながら歩いて行った。本当は新しい防寒靴《ガローシ》をもうとっくに買わなければならない筈なんだ。底でゴムの疣《いぼ》が減っちまったら、こんな夜歩けるものじゃない。
橋へ出た。木の陸橋だ。下を鉄道線路が通っている。前を三人若いコムソ
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