官僚主義者、新生活の擾乱者の標本が、世界無産婦人デーの夜、トラムによってどう撲滅されるか、息をつめて観ている。

 外でモスクワは濡れた春のビードロ玉だ。夜が更けるにつれ益々すべっこくなった。モスクワ大学横の暗い坂をタクシーが一台登ろうとしては辷って逆行していた――が、読者よ、そんなにおそくまで平気で子供をほったらかし無数のソヴェトの母親がクフミンストル※[#濁点付き片仮名「ワ」、1−7−82]・クラブのの広間で、芝居に熱中してると早合点してくれるな。СССРの勤労者クラブは、きっと建物のどっかに「母と子の室」を備えている。そして母が彼女等の芸術的な或は政治的な啓蒙を吸いこんでいる間、それらの母の赤坊は「母と子の室」の小さい白い寝台の上で静かに眠り、かれらの酸素を吸っているのである。
[#地付き]〔一九三一年一月〕



底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「改造」
   1931(昭和6
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