る。けれどフェージャの考えは違うのよ。
――ふーむ。どう?
――フェージャは今朝私に云った。赤坊だの、おしめだの、家庭だのって時代おくれの俗人趣味だ。俺はいやだ、って……
ミーチャは手に持ってた針金の束でポンポン自分の脛をたたいた。(彼は彼等が棲んでるこの借室へラジオを引こうとしてるところである。)
――じゃ何かい、フェージャは……馬鹿らしい! お前達んところにはこうやってちゃんと独立した室があって、職業があって、しかも工場にあんないいヤースリ(托児所)があるのに――。安心しといで。俺が云ってやるから……フェージャは間違ってる! だがね、
単純な困惑を現わしてミーチャは頭を掻いた。
――畜生、俺がフェージャぐらい言葉の数知ってたらな!
フェージャは、書類入鞄をそこへ放ぽり出してカーチャを追っかけている。
――ねカーチャ、一寸僕の云うこときいてくれよ! 僕は全く君なしで生きるなんて、そんなこと考えられないんだ。
――お前、私の前にはタマーラに、タマーラの前にはリョーリャに同じことを云ったじゃないの。
バンドつきカーキ色のコムソモールカの制服をつけて、カーチャは冷静だ。
前へ
次へ
全23ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング