上った。
――タワーリシチ、これで今夜私のところに記名表の来ているだけの演説は終りました。誰かもっと話したい人はありませんか?
数百の聴衆、シーンとしている。二秒ほど経って若い男の声が叫んだ。
――|ない《ニェート》!
つり出されて今度は矢継早にそこここで急いで、
――|ない《ニェート》!
――|ない《ニェート》!
日本女の隣の拇指の太い男は、愉快そうな笑顔だ。同感してるのである。СССР労働青年の気分に。
――では、これから休憩二十五分。すぐ芝居にうつるが賛成ですか。
すごい拍手だ。拍手の音が細そりした老年の婦人議長を舞台の方へふきとばした。
日本女のまわりは完全に陽気な祭のさわぎだ。
――ナターシャ! ナターシャ! 早くこっちへおいでったら。
――ミーチャ、どこ?
――見なかった? あっちへ場所見つけたってさ。
立つ。手招きする。遠くと遠くで何か合図しあってる。
――どいてくれ! ホラ! ホラ!
クラブの監督がこみ合う尻や背中をかきわけてコムソモールに片棒かつがせ長いベンチをかつぎこんできた。
――どこへ?
――ここ、此処!
第一列の前へさら
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