にいきいき反応しつつもう始って三時間近くなるだろう演説をきいてるのは、いわゆる自覚ある労働者、三月八日の女主人、労働婦人及赤ネクタイをつけた彼等の前衛的後継者たちばかりではない。
細い亜麻色のお下髪を小さい背中にたらして、水色縞の粗末なフランネル服を着ている少女はずっと日本女の右隣に坐っている。しずかに行儀よく坐って話をきき、あまり数字ばっかりマイクロフォンから鳴り響いた五ヵ年計画の話の時は右手をフランネル服のポケットにさし入れ何か粒々したものを掌へ、それから口へそっと入れた。
咳がしたくなる。少女は彼女のまだ性別定かならぬ喉笛のむず痒さで演説の邪魔をしてはならないと知ってる。細い手の指をかためて口を押えて用心深くやっている。
この明かに未組織な少女(ピオニェールではない)の伴れは祖母さんだ。生れてから婦人帽というものは頭にのっけずにきた、そして、自分の家の台所でか他人の家の床の上でか手と足とで働きつづけてきたという風な祖母さんだ。両眼を細め、片腕を肱ごと前列の椅子の背へもたせかけ舞台を見つめて話をきいている皺深い横顔の輝きを見てくれ。СССРが凡《およ》そ百三十万のクラブ員の上
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