いると、いつもそうだ」
「ひとって――ひとなんか別にいやしないじゃないか」
「宏子だっているじゃありませんか」
父親と向い合うところに腰かけていた宏子は思わずその言葉に頭をあげた。そして、父を見た。
「自分の娘を、ひとっていう奴があるもんか。とにかく、あした勧銀へ行きますよ、そうすりゃ何も云うことはないだろう」
「あなたは、自分のかたをもつものがいるときは、いつもそうやってごまかそうとなさる。私はそういうところがいやなんです」
宏子は、少し蒼ざめた顔をして瑛子を見、云った。
「私はひとじゃなくて、ここの子だと思ってるんだから、どうか安心して、いくらでも喧嘩して頂戴。その方がよっぽどいいわ。私が味方するのは、私がその人の云うことは本当だと思うときだけよ。私だって母様の子だからね、喧嘩は大しておそれないの」
父親と並んで腰をかけ、腕組みしていた順二郎が、制服の膝をゆするようにしながら憂いのあらわれた訴える声で云った。
「どうしてみんなそう怒るのさ。ねえ、母様もおこるのやめて。僕、苦しくなっちまう」
上気して滑らかな瑛子の頬っぺたの上を燈火に光って涙がころがり落ちた。
「ほんとに考え
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