親の声が、急に、おこった調子で高まった。
「お忙しいのは分っていますがね、あなたって方は、いつだって、その場では安うけ合いをして、決して実行なさらないんだから。築地のことでは松平さんだって、どうなったかって、おききになるんですからね、放っちゃおけないんです」
「わかってるよ、だから明日にも勧銀へ行って調べて来よう」
「あした、あしたって。――大体あなたは、建築家のくせに、事務的でいらっしゃらない、私の体の工合がわるくさえなければ、何にもあなたのお世話はうけないんだけれども……」
気まずい思いがひろがって、宏子も順二郎も黙り込んだ。お盆をもってお給仕がそこに坐っている。宏子は気がついて、
「もういいわ」
と云った。瑛子の気質の激しさは、いつもこういう形で爆発するのであった。食事を終って、横の腰かけに移った泰造に、なおも言葉で追いすがるように瑛子が云った。
「あなたって方は卑怯ですよ」
「――大変なことになったもんだね」
それは、やっと怒鳴るのを我慢している苦々しげな笑いで云った。
「俺は、自分ぐらい模範的な良人はないと思ってるがね」
「そこが卑怯だって云うんです――あなたはひとが来て
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