は、父の洗顔がすむと、もう髭にも大分白いものの見える父親の顔がブラシの動きと一緒に映っている鏡の横から自分の喜々とした顔をのぞかせ、宏子はそこにある台から母の白粉をとってつけた。
食卓についても、順二郎が帰らなかった。
「どうだね、そろそろはじめちゃ」
「そうしましょう。じゃ、お給仕をして」
瑛子は、
「順二郎さんの分をさめないようにね、おかえりんなったらあっためてお上げ」
と、念を押した。
順二郎は、夕飯が七分通り終りかけた頃、制服姿で現れた。
「おそかったねえ、おなかがすいただろう。小枝や、さっきのをすぐあつくして」
中学校が古風なフランス人の経営で、生徒に運動をさせなかった、その故もあるのか、順二郎の背の高い体は、どっちかというとぼってりした肉付であった。鼻の下に柔かいぼんやり黒い陰翳《いんえい》がある丸顔には、青年らしいものと少年ぽいものと混りあってのこっている。特に、姉の宏子と同じように父親似で、くっきり山形のついた上唇の線は、彼の顔にあっても印象的な部分をなしているのであったが、その唇のところに彼の子供らしさは主としてのこっているのであった。
実際の内容はちっとも
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