の上にトルコ女のように坐ったなり、両方の眉を上の方へ高く高くもち上げ、唇を丸めて下手な口笛でワルツを吹き出した。
六
次の週、宏子は家へ帰らなかった。その次の土曜が、丁度父親の誕生日であった。
宏子は、途中で花屋へまわって茎の長い薔薇の花を買い、それを持って行った。
玄関がしまっていた。ベルをならしたが誰も来ない。宏子は敷石の上に靴の踵の音をさせて、内庭の垣根沿いに台所の方へまわって見た。ゴミ箱のふたがあけっ放しになっていて、その下のところに黒い雑種の飼犬がねている。犬は宏子を見ると、寝そべったまま、房毛の重い尻尾を物懶《ものう》そうにふった。その途端女中部屋から、声をあわせて笑声が爆発した。宏子たちに物を云う時とはまるで違う、二重にわれたような手放しの笑声なのであった。
宏子は、そんな声で笑った今の今、自分に対して急にとりつくろった発声で物云いをされるのが苦しかった。そのまま、炭小舎の横をまわって、庭の木戸をあけた。人影がない。庭へ立って、二階の方を見上げながら宏子は手を筒のようにして、
「アウーウ」
と大きく抑揚をつけ呼んで見た。順二郎もいないらしい。そ
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