な眼付をして、肌理のすべっこい、小鼻をつまんでつけたような三輪の顔を見た。彼女は顎をしゃくって、不機嫌に、
「そこに、ある」
 フランス語で短くなげつけるように云った。
「そうよ、ここにあるにはあったって――一体ここの先生たち、みんなあっちで勉強して来たくせして、舎監学ばっかしやって来たみたいね。本当に愉快なカレッジライフなんて、きっとしたことがないのね。みんな先生になるひとばっかりでもないんだから、もうすこし感じよくしたっていいのに――学校だって、謂わばお客なんだもの、私達が……」
 宏子は、この言葉で、殆どその日になってはじめて大笑いをした。
「本当よ! 私、若い時代に味えることは何だって味わいたいと思う。地方から来る学生が、みんなただ学問だけを求めて来るんだなんて思ったら随分単純だ」
「あなた、グループに入っているの、その気持から?」
 三輪はそういう質問を出した宏子の顔を暫く黙って見守っていたが、やがて艶のいい桜色の顔を窓の方へ向けて、
「大丈夫よ」
と云った。
「あなたがたを裏切るようなことはしなくてよ」
 間をおいて、
「私は、あなたやはる子さんと違うの。エゴイストなの。だ
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