んた、きょう|青い月曜日《ブルー・マンデエイ》ね」
 小さく赤い唇で、秋田訛を云った。宏子は、唇をへの字のようにしてうんうんと頷き、連立って図書室の方へ行った。廊下の突当りの迫持《せりもち》窓から一杯の西日がさし込んでいる。そこで、はる子を中心に三四人かたまっていた。
「あなたどこんところ使うの? かち合っちゃうと駄目だから」
「あら、私そこをねらってたのに……」
「ふ、ふ、ふ、ふ」
 ぷっつり切った髪の切口を青いスウェータアの背中で西日にチカチカさせながら、忍び声をして押しあっている。宏子が近づくと、はる子は黙って手にもっていた本の表紙を伏せて見せた。何とかいう文学士の「詩歌にあらわれた自然観」という題であった。宏子は首をすくめた。
 学生に一番苦手なのは英作文の宿題であった。こまると、誰かが日本文の種本を見つけたのを、ひっぱりあってところどころ利用して翻訳し、間に合わせることがあった。外国人の教師は日本語の本はよまなかったから、通用しているのであった。
 宏子は、図書室へ入り窓際のところに坐って、暫く仕事をした。帰りかけると、はなれた机にいた登誉子もその様子を見て一緒に出て来た。

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