軽蔑を感じていた。寮でそんな話が栄えた時、はる子が、
「加賀山さん、あんた書いてよ」
と云った。
「『欅』にのせるから」
原稿紙のまま綴じたそういう名の回覧雑誌のようなものを、特に文学好きの十五六人でこしらえているのであった。電話で、はる子が書くもの、と云ったのはこのことなのである。
宏子は、スタンドの灯かげで気持をだんだんまとめた。自分の云いたいことが次第にはっきりして来る。それにつれ、一方で、弟の気持、考えかたというようなものが、自分のそれと何処かでひどく違っていること、或は全く別種なものかもしれないという不安なような珍しいような気が益々つよくした。順二郎の部屋を出て来る時、何心なく見たら入口の鴨居の上に紙を貼って、それにMという字の山形をきつく聳え立たせたような字で Meditation と書いてあった。それも宏子の頭にのこった。自分に一つの標語を与え、それで生活をきびしく律して行こうとする気持は、宏子にも理解されるのである。だが Meditation――そんなものは、夏休み前の順二郎の部屋の鴨居には貼られていなかった。
三枚あまり書いた時、外からそっと書斎の扉をあけた者が
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