スクが置かれている。うしろの壁にオリーヴ色の絹を張った硝子戸つきの本棚があり、今、狭い室の内を照し出した電燈の白い笠には、眩しいと見えて、ノートの紙を丁寧に長方形に截ったのが短く下げられてある。
宏子は閾のところへ立ったまま、
「少しさむいけど、落付くね」
と、珍しげに四辺を眺めた。電燈を紐でひっぱってある鴨居の釘のところに、スケッチ板に油で描いた曇天の海浜の絵が額縁なしに立ててある。デスクから目をあげた時いい位置ではあるが、宏子にはその絵の灰色と淡い黄と朱の配色が寂しく思われた。
「その絵だれの?」
「さあ、よく分らないけれど和訓さんのじゃない?」
「北向なんだから、もっと暖い色のを見つけりゃいいのに。――あるんだろう? 探せば」
「刺戟が少ない方がいいから、これでいい」
宏子は、隅によせかけてあった古い三脚椅子を見つけて、その上に腰かけた。
自分用の廻転椅子に姿勢よくかけた順二郎の顔は灯の真下にある。宏子はすこし翳《かげ》をうけて、ずっと低いところにその顔を浮き出さしている。おそ生れと早生れの二つ違いである姉弟の顔だちは、そうやって一つ灯の下に並んだところを見ると、その間にお
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