校では文芸部に入っているんです。文学少女みたいなんだけれど、どっかちがうところもあるし、とても読書力はあってね、こないだゴールスワージーの小説の批判を書いたのなんか、みんな面白がったわ。――でも、政治的には大して高くないと思うんです。……誠意はあるからいいと思うんだけど」
表通りには夜店の手車が集りはじめた。デパートの買物包を下げてバスの停留場に急いでいる人むれ、または、これから日曜の一晩を楽しもうと新しい勢でくり出して来た連中で、鋪道の上は益々混雑した。はる子は、例の右肩をよけいに振る大股な歩きつきで人波をよけながら、それでもうっかりすると重吉から引離され、人ごみにまぎれそうになるのであった。交叉点のところで、重吉は後から来たインバネスの男に押されるようにしながら歩みをとめ、腕時計を見た。
「一寸腰かけようか」
はる子が頷くと、重吉はすぐそばの硝子戸を押して、ひろい真直な視線で繁華な店内のざわめく光景を見わたしながら、派手なチョコレート製の塔が大きい飾窓に出ている喫茶店に入って行った。入れ違いに人が立ったばかりで、まだテーブルの上にソーダ水のコップが並んでいる一つのボックスを見つ
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