ます」
腕の大きい動かしかたで重吉は左手で帽子を深くかぶり直すようにしながら、黙ってその金包みをズボンのポケットに入れた。
「――この前のとき、配布の助手を見つけることになっていたが、どうなった?」
「一人はあるんです」
「メンバアかい?」
「ええ、割かた近ごろ入って来たひと。同級なんです。市内にうちのあるひとがいいんだけれど、私たちんとこ、通学のひとは比較的むずかしいんです。きっと、学校とうちと生活が別々で、うちへ帰ると家庭の気分にまぎらされちゃうのね。大体云うと、私なんだか東京で生れて、ずっと学校も東京でやって来た学生って、あんまりがっちりしてないみたいな気がするんだけれど」
「…………」
重吉は濃い眉と睫毛とを一緒くたにして一寸しばたたくようにして考えながら、黙って歩いていたが、はる子の云ったことには直接戻らず、
「新しく見つけたのは、どういうのかね、通学?」
と訊いた。
「いいえ、やっぱり東寮のひと。でもうちは向ケ丘辺にあるんです、加賀山宏子って――うちは中ブルだわ」
「――よさそうかい?」
はる子は首を傾け、考え考え、
「ああいうの、どういうんだろう」
と云った。
「学
前へ
次へ
全52ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング