やしながら、若やいだ顔つきをして娘を睨んだ。流行からはずれているにかかわらず、瑛子はたっぷり前髪をふくらがした束髪に結っているのであったが、その結いかたは、特別な派手な似合わしさで彼女の面長に豊富な顔立ちを引立てている。くつろいで機嫌よくしている母を、宏子は美しいと思って心持よく眺めた。大抵毎週土曜から日曜にかけて、宏子は語学専門の塾の寄宿から、うちへ帰って来た。そういう生活になってから、自分が生れて育った家の生活というものが、だんだんその輪廓を浮立たせて宏子に映るようになりはじめた。日によって母が濃やかに美しく、日によっては、午後になって来て見ても肌襦袢の襟の見える寝間着の上に羽織を着たような姿でいることがある。それも、親たちの生活の一つの波として、宏子にまざまざと感じられるのであった。
「――じゃ、食堂へお茶の仕度をしてね」
 瑛子について食堂のドアをあけるとき、宏子はうしろから軽く母親を抱くようにした。
「きょうは、母様綺麗だわ」
「おやおや、それはどうもありがとう」
 食堂は北向きで、三分の二ぐらいまでの高さには凍った水のような模様の入ったガラス窓が閉められていた。上の、透どお
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