ながら、宏子はナフタリンのきつい匂いと古い下着類の散らかされている縁側よりのところへ坐った。
「いいえね、お父様のラクダの襯衣《シャツ》がどうしても見えないんで、さがすついでに少し整理しようと思ってさ」
 瑛子は、お召の膝の上にのせてしばりかけていた一つの包みを、じゃあ、これにも達夫様古下着と紙をつけてね、と云って女中に渡した。
「お嬢さんもかえって来たし、きょうはこのくらいにしとこうよ。包みは一応戸棚へでも入れておくんだね」
 開けた障子のところへ楽な姿勢で、よっかかり、その様子を眺めていた宏子の活々して、感受性の鋭さのあらわれている眼の中に、あったかい、だが極めて揶揄《やゆ》的な光が輝いた。彼女は、柔かい髪をさっぱりと苅りあげている首を、スウェータアの中でわざと大きく合点、合点させながら云った。
「そう、そう。そして、十日もたったら、又同じ包みをもち出して、ひろげて、日に当てて、あっちのものをこっちへ入れて、しばって戸棚へつんでおきなさい。包みは減りっこないし、きりもないし、大変いい」
「早速そうだ!」
「だってさ」
「もう、いいったら!」
 瑛子も、その図星に思わず自分からにやに
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