の焦った気分は、一番手っとりばやり一番ききめがある方法を思いついて、早速ビール接待というような表現をとるのだろう。野菜はくさりやすくて足袋のような買いだめは出来ない。買いだめ出来ないということから益々お互いに気はずかしいような手段がとられて行ったのであると思える。
商人の公正な商売道徳が新しく立てられなければならないことが云われて、それはそのとおりなのだけれど、それだけ一方的に、モラルの面から強調されても商人の身になれば云いたいことがあるのだろう。商人も今日の社会の新しい状態に入り切れずにいるし、買い手の方もそういうところがあって、例えば野菜ものにしろ共同購入を試みた隣組、或は隣組のそういう活動を鼓舞して組織した町会という実例を余り知らない。互いの関係から云えば、主婦たちが迅速に計画的にそういう方策を立てて行動してゆく実際の力によって商人の従来の商人気質も脱皮されて行く訳だろう。
家庭購買組合も見たところ大きい規範で経営されてはいるけれど、各戸を実際にまわっている実務員が報酬を歩合い制でもらっているものだから、月の売上げの多額なところへ便宜を計るという致命的な弱点をもっている。少人
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