母ともどもすこしあっけにとられて東京へ帰って来た。
 東京駅でスーツ・ケースをうけとってくれたひとが、先ず訊いたのは、あっちでは野菜はどうだった? ということであった。日本葱一本を等分にわけて、お宅には特別にこっちをあげましょうと白い根の方を貰って来たという話もその朝省線の中できいた。
 野菜不足は深刻な昨今の不便だが、そこにはいろいろの原因がたたまっているだろうと思う。関東の大水害で野菜が水の下になって腐ってしまった。これも原因の一つである。公定価格がきまった途端に品物は消滅してしまった。これも原因の一つを示している。
 あれこれの理由で野菜が消え去ったとなって、市民のそれに対する対策はどんな方法で行われているかというと、やはり実に個人的にやられている。或る隣組の常会で、その話が出て、お宅ではどうなすっていらっしゃいますかという問いが出た。一軒の家は、一日おきに田舎へとりに行っておりますからと答えた。もう一軒の主婦は、買いつけの八百屋にビールをのませたりするというような返答で、それきり話は進まなかったという事実がある。
 野菜なんかは、毎日目の前になくてはならないものだから、主婦たち
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