の人生の何処を通っているんだろうか、と思った。現代に、好学心と社会生活の安定とがこの位好都合に統一されることの出来た青年というのは境遇的に全く例外だと思う。この人はその例外的な事情の値うちを今日幾十万の青年たちの置かれている現実の有様と照らし合わせてどう自覚しているだろうか、という気がしたのであった。ありふれたアカデミックなコースをただ早まわりするというだけであったら意味がない。ひところ、良心的な人間の社会的任務というものが、その人々の専門の技術以外の社会的行動、政治的な行動に重点を置いて二元的に考えられていた時期があった。そういう行動の可能が周囲に見えなくなったので、人間としての良心的に生きる途を失ったような当惑の感情があった。しかし、今日理解は経験によって深められた。それぞれの専門の活動を貫いてその道から社会的な進歩に参加し得るものであり、又、そこまで各自の専門的学識、技術を従来のアカデミックなものから解放して活々と社会的に把握するべきであるという覚悟にまで到達していると思う。めいめいがその道において生き、その道において進歩のために闘い、その道のために誇りをもって死ぬことの出来るよ
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