若き時代の道
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蘊蓄《うんちく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三七年五月〕
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 人間として何か意味のある生活を生きぬきたいという極めて自然な望みと、現代の社会で私たちが生活して行かなければならないための生活の形というものとの間に、今日は実に深い矛盾がある。明治時代は、学校で学問をすることと、社会に出てからその蘊蓄《うんちく》を傾けて立派な人間的活動をすることとは、少くとも或る程度までは一致して考えることが出来ていた。現在はそうでない。いかに生きるべきかという問題の内容は非常に複雑であって、毎日は一応学生生活をやっていても、サラリーマン生活をやっていても、そういう謂わば外側の生活の順序だけ円滑に行っているだけでは、まだ本質的にこの問題が解決されきらない。そのことを、真面目な人々は日々深く感じているし、苦しんでもいるのである。
 大学が学問の自主を失ったこと、インテリゲンツィアが左翼の退潮とともに生存の歴史的な方向や見とおしを失って無気力化したことなどが一つの
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