ち一人一人の胸の中をきいてみれば、今日何かの意味で自分としての生活をもって、それを職業だの結婚だのと調和させて生きてゆきたいという希望を抱いていない人は恐らく一人もないだろうと思う。職業なり仕事なりに伸びるだけ自分を伸ばして、同時に女としてたっぷりとした妻、母として生きたい願望は一般として痛切なものだと思える。
 この点では、大正七八年頃はじめて職業婦人として進み出した時代の若い女のひとたちより、今の娘さんの気持は複雑にちがって来ている。その頃は、職業をもつこと自身が婦人の社会的なめざめの第一過程であるという一つのモラルで見られていたし、その意味では職業婦人は先覚的な若い人たちとしての自信も矜恃もあった。働く娘さんの数は少くて、そんなことを思ってもみないひとの方が多かったのだけれど、職業をもつことを人生的な態度として行った女のひとの周囲には、時代的にその動きを肯定する青年たちもいたわけだった。職業につくということは、或る積極的な方向を示すことであったと思う。
 今日では職業は若い娘さんの生活にもっとずっと日常のこととしてくい込んでいて、それが先覚的な人生の態度などというきわ立ったことで
前へ 次へ
全20ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング