物さえもそれぞれ時代の歴史を照りかえし、またその歴史を交互に営んで生きつづけてきているのであるから。手近な文学作品の書棚で私たちの見出すのは何だろう。
 シェークスピア全集は随分流布した。「ハムレット」のオフェリヤ。「マクベス」のマクベス夫人。「ベニスの商人」のポーシャ。「リア王」の三人の娘たち。「オセロ」のデスデモーナ。色とりどりの可憐さ、鮮やかな性格と情熱と才智とで、男の政治、経済の波瀾、権謀の中に交錯してゆく女の姿が描かれている。
 近代国家イギリスを盛立てたエリザベス女皇の時代の社会の文学として、シェークスピアが、古代ギリシャ文学などに女が運命の神と男の掠奪のままに生涯を流転した(トロイの美しきヘレンの物語)歴史から出た当時の女が、自分の心情に従ってよくもわるくも動こうとする姿を描いているのは興味がある。しかし沙翁の女は、経済にも政治にも大体かげで男を女の魅力と才覚とで動かしてゆく女が描かれているのは、モリエールの喜劇などにあつかわれている女の姿と共通のものがあって興味ふかい。
 ジョルジュ・サンド「愛の妖精」「アンジアナ」(岩波文庫)は、十九世紀のロマン主義時代に生れたフラン
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