の「党生活者」という小説が再版されるようになったが、その中に、その小説の主人公である青年闘士が女の同情者、そして愛人と同棲生活をして、困難を経てゆくことが書かれている。ある種の人々はそれについて共産党員の間にはハウスキーパーという一つの制度があって、自分達の便利のために女性をあらゆる意味で踏台にした、という批評をしている。今日、これは大変に不思議ないいかただと思う。
 非合法であった時代に、警視庁が党生活にたいする逆宣伝として新聞に書きたてさせた、その言葉を、今日の知識人とか批評家とかいう人が、鵜呑みにして平気でそれをくりかえすのに驚ろかされる。
 なぜなら、その人達はそういう事実を自分で一つも経験していないにもかかわらず、事実かどうかをきわめようとしていない。こういう社会的真実にたいする追求の怠慢は、知性そのものの不純潔性である。
 私自身の生活の経験を考えてみて、身辺のたれそれの生活を考えてみて、ハウスキーパーの「制度」などは決してなかった。ハウスキーパーという名のもとに女性を全く非人間的に扱ったのは公判廷で自白しているとおり警視庁から入ったスパイの大泉兼蔵などであった。熊沢みつ子
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