などがあったとき、私を呼んで二人でカタログなどをひろげ、買うならこれが欲しいなどと話し、実際にそれを買うということは出来ませんようでした。
陶器の趣味についても同様でした。やっぱり逸物を手に入れるには金がいる。そこまでは手が届かぬ。それで晩年は見物だけでした。亡くなる前の年の秋ごろでしたか壁懸《タペストリイ》の展覧即売会がありました。その中で、優れたものを当時建築が完成しかけていた某邸の広間用として是非おとりになるようにするのだといって、自分の手で建てられた家のそれぞれの場所に、自分の気にも入った世界的レベルの絵画、工芸品の飾られるのを見て、深いよろこびと満足とを感じている様子でした。そういう時の、父の老いたが若々しい光のある顔は、美術品に対する無私な情愛というようなものに溢れており、娘の私の心をうごかしたものでした。
没する数年前、久しぶりでロンドンへ再遊しましたが、そのときの旅行の目的は父自身の愉しみが主眼ではなかったので、大して好きな骨董店まわりも出来なかったようでした。只、三十年前に指環、カフス・ボタンのような小物を買った店が、現在でも同様趣味のある小物を売っているので、懐
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