らゆる具体的な血管を通じてじかに歴史の鼓動とともに生きている。
 女の場合には男より一層それが社会の通念や常套と絡みあって来る。葛藤が女性を文学以前において消耗する力は、何とおそろしく執拗だろう。そのたたかいの間から漸々いくらかずつ自身の文学を成長させて来ている事実は、現在私たち同時代の婦人作家の殆ど総てが、女性として結婚生活の経験の上に何かの形でそれぞれの痕をもっていることからも考えられると思う。文学に向って何をか求めることは、とりも直さず生活の日々のなかに何かを求めることになる。この芸術本来のいきさつは、女性の場合特別に直接である。
 私として第一次欧州大戦が終った丁度そのときニューヨークに居合せたことは、稀有な歴史的情景とともに、どっさりのことを考えさせられる機会となった。
 武者小路さんが云っている愛というようなものに、疑いを抱いたのもこの時であった。もし人間に無条件に通じ合う愛というものがあり得るなら、こうやって初冬の晴れた大空を劈《さ》いて休戦を告げる数百千の汽笛が鳴り渡るとき、どうして人々は敗けて、而も愛するものを喪った人々の思いを察しようとしないのだろう。歓呼のうちに自
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