心をひいているであろうから、或は却って将来松本氏にとっては幸福な結婚の可能性が増したことになっているかも知れません。
栄子さんに対してああいう風な形で熱情をうちかけたからと云って、これから松本氏が生涯を独身で送るであろうとか、そうあってこそ本当の純情だとか思う人があったら、私はそれこそ人間の心を安っぽくかたづけるロマンチシズムであると思います。
或る場合、或る種の人間にとっては、松本氏のような苦しい愛情を経験したとき、その精神的感動と緊張とが深大であればある程、感覚的な放散がなければ生きる抜道がない事さえもある。いずれにせよ、私は卑俗なセンチメンタリズムで松本氏が自繩自縛の偽善に陥られぬよう希望するし、私達の態度としては、こういう人生のめぐり合わせに対して思いやり深く、しかも鋭く明瞭に且つ現実的に事態を省察して、その実際の条件の内から当事者と周囲とを、一番幸福にし得る方法を見出す努力をするように、しっかりとしてひるむことのない生きてであることを希望する次第です。
弓子さんの場合、私はここにのせられている文章から、何か非現実的な、合点ゆかぬものを感じたのですが、読者諸氏はその点を
前へ
次へ
全8ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング