私も一人の女として
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)俤《おもかげ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)自身の妻としての栄子[#「自身の妻としての栄子」に傍点]
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 今私たちの前には、その事件が当事者の愛の純情に発しているという意味で人の心を打った二つの現象が示されている訳ですが、私は松本伝平氏の場合と弓子さんの場合とは、それぞれ別のもので、違った分析がされなければならないものではなかろうかと考えます。
 松本氏が、急になくなられた許婚の愛人栄子さんと岳父の代人で結婚の盃をあげられた行為は、氏の年齢や学歴やその地方での素封家であるというような条件と対照して、私共の注意を一層呼び起したと思われます。「松本氏の年や地位にてらして何という今の世に珍しい純情であろう!」そこに同情と或る感歎が与えられているのだが、私は、その点を大変面白く思いました。何故と云えば、考えて御覧なさい、世間が松本氏の純情を特別な美しいものとしてとりあげた反面には、実に明瞭に、今日の社会で三十越して、金持ちで、博士なんていう男はどうせ女ずれがし
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