「貧しき人々の群」はいかにも十八歳の少女の作品らしい稚なさ、不器用さにみちている。けれども、何とまたその年ごろの感覚でしか描き出せないみずみずしさに溢れているだろう。すべての穢らしさが、現実的につよく作品の中に描かれているが、その穢なささえ、よごれた少年の顔のようにやっぱりその地は、人生のよろこびで輝やいている。ロマンティックな情感とともにリアリスティックに、成長的に現実にふれてゆこうとしている幼い作者の努力をくみとることが出来る。
この作品は、作者が年若い少女であったことと、その少女の生活環境にあわして社会的に積極的な取材であったこと、単純だが濁りのない人間感動などによって、その時代の文学に一つの話題となった。しかし、このことは、作者の生活を着実に大人の女として発展させてゆくためには深刻な害悪の多い刺戟となった。一人の少女は、自分をまともに女として、作家としてひっぱってゆくためには、一篇の小説を発表したことによって自分の内と外とにひきおこされたあらゆる不自然な力とたたかいつづけなければならなかった。その意味で、この作品は、一人の少女の生活と文学との可能性がそれによって進み終せるか、
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