夭折させられるかという、重大な危期をその第一歩からもたらしたのであった。
 この小説の中には、素朴なかたちではあるが、おそらく作者の全生涯を貫くであろう人生と文学とに対する一つの基調が響いている。どういう風に社会に生き、人生を愛し、そして文学を生んでゆきたいと思っているか、ということが暗示されている。「貧しき人々の群」の中で、悲しい兄弟よ、と歎息した作者の心情は、その後永い歳月と波瀾を経て、社会史的な観点と未来の幸福の建設の具体的な方向とをつかむようになって来ている。この作品の背景となった農村の生活は、その後、作者の生活の大きな曲り角の一つ一つに、背景となってちらり、ちらりと現れて来ている。「伸子」の或る部分に。「播州平野」の或る部分に。それぞれ、日本の歴史の波が、この農村の生活そのものをも変化させているその姿において。――
 わたしは、いつか、この「貧しき人々の群」の発展したものとして農村の小説が書いてみたい。しんから、ずっぷりと、暗く明るく泥濘のふかい東北の農村の生活に浸りこんで、そこに芽立とうとしている新鮮ないのちの流動を描き出してみたいと思っている。
   一九四七年四月
[#
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング