作者の言葉(『貧しき人々の群』)
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)雑木林の中に生えるきのこ[#「きのこ」に傍点]とともに、
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「貧しき人々の群」は一九一六年、十八歳の秋に発表された。書きはじめたのは、一年ばかり前のことであった。福島県のある村に祖母が住んでいて、孫のわたしは五つぐらいのときからちょいちょいその東北の村で生活をした。少し大きい小学生となってからは、ひとりで夏休みじゅう、おばあさんのところで暮した。その村の年よりたち、牛や馬、犬、子供たち、ばかの乞食、気味のわるい半分乞食のようなばあさん、それらの人々の生活は、山々の眺望や雑木林の中に生えるきのこ[#「きのこ」に傍点]とともに、繭が鍋の中で煮えている匂いとともにわたしの少女時代の感覚の中に活々と存在していた。
 段々トルストイの小説をよむようになり、「コサック」や「ハジ・ムラート」に感動した。深いその感動は、自分のうけている村の自然と人間の生活の姿を強烈にわたしの心に甦らし、それを描き出したいこころもちにみたした。そこで、書き出したの
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