農業である。これは日本の生産との関係から肯けることであり、その態度には「農業を風雅なものとか、辛苦の多いものとか甘い感傷の歌は殆どなく」「職業としての農業をつよく意識し」「自意識と批評精神から来る重く苦しいものが流れていて、これが正に農業を営んでいる人の心の端的だろうと思わせられる」
次に目につくのは小学教員、工場内で職工として働いている人の歌であり、これらの人々の歌には歌材として第三者への間接性があるにかかわらず勤労が必要としている日常の緊張から「間接を直接ならしめて、歌としては清新な、力強いものを生み出している」というのは、意味深い文学上の一つの客観的事実である。
官吏、軍人、画家、銀行・会社につとめている人々。更に料理人、理髪師、土工等あらゆる階級の人々にとっての文学表現の形式となり得ている、その様式の浸透を、窪田氏は超階級性と見ておられるのであるが、直ちに、作歌上からむずかしさのために過去の歌でさけられて来ている職業を取材したものの多いのは、現代の歌の特色を語るものであると認めていられることも面白く、歌は「その社会的な点に於て散文文芸に並び得るものだと云える感がする」と述べ
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