への観察として未しであろう。今日の現実にあって、従来云われて来た種類のヒューマニズムが多くなすところあり得ないという実際を、いかに身にひき沿えて自覚し、その自覚からどう抜け出してゆくかということにこそ、最近日本の文学にヒューマニズムの唱えられて来た将来への意義がこもっているのである。
今日の全体的経験はすべての芸術家にとって避け得ない全体的経験としてあらわれているのであるが、人間生活の具体的な現象にあって、全体としての抽象的経験というものは存在しない。あらゆる日常の諸経験は、各人それぞれの感性を通し、知性、どこで生きているかという居り場処を通し具象的な事実として接触をもって来る。新しい文学の生れる素地は、全体のうちに在る現実の箇々の諸条件、そこにある豊富さ、経験とその吸収とに際して働く意欲如何によって決定されるに違いない。現実の諸関係についての一層のリアリズム、一層の粘り、一層の謙遜にして不屈なる作家的気魄の確保が、今日から明日へつづく諸経験を貫いて、文学的結実をなすであろうと信じる。
附記
今日の文学を語る上からは、当然小説以外の諸ジャンルの現実にふれなければならない。筆者の
前へ
次へ
全89ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング