大臣は、大学専門学校等の周囲三百米から喫茶店、ビリヤード、マージャン等の店を撤廃するように命じ、従来の自由主義的な学生の取締方法を変更するべきことをすすめた。十二月二十四日の都下の諸新聞は、防共三首都の日本景気に氾濫したニュースと共に、四年間に亙った帝人事件が無罪と決定したこと並に、明春建国祭を期して一大国民運動をおこして特に国体明徴、日本精神の昂揚、個人主義、自由主義、功利主義、唯物主義の打破等精神総動員の趣旨の徹底をはかり学生、生徒、児童等には愛国行進その他団体運動を行わせ、これらの集会、行進等に際しては今回選定された愛国行進曲を合唱させること等を報じている。聖戦祝勝の気運をもってひた押しに一九三七年は暮れようとしているのであるが、さて、ここで再び人類の文学にとって興味つきざるヒューマニズムの問題に立ち戻って見たいと思う。かかる今日の環境にあって、日本文学はヒューマニズムの歴史のいかなる過程を辿りつつあるのであろうか。
 能動精神とヒューマニズムを提唱した人々によって、例えばテクジュペリの小説「夜間飛行」の主人公が死と闘う意志の強烈さに於て讚えられたのであったが、観念的なものである
前へ 次へ
全89ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング