ては驚くべき心理小説の後をうけて硯友社の活動の裡にも謂わば併流している。前代からの遺産としての戯作者文学の伝統は、今日一部の文学者が云う如く簡単に日本文学から消えてはおらぬ。綿々として、荷風の「※[#「さんずい+墨」、第3水準1−87−25]東綺譚」にまで、はっきりとした作者の文学的意嚮として連って来ているのである。一方、漢文学との融合に立つ日本の伝統的文人気質というものは、硯友社出身で江戸っ子である幸田露伴の今日をいかなる内容に彫り上げているであろうか。鴎外の晩年とその伝記文学とをいかに彩ったか。漱石が彼の最大のリアリズムで「明暗」を書きつづけつつ、その人生の脂っこさ、塵っぽさにやり切れないから、一日に一つは漢詩をつくって息をぬくのであると云って、白鶴に乗じて去るというような境地に逃げたことは、明治大正のヨーロッパ化した文学精神における文人気質の何を語っているであろうか。芥川龍之介を死なせたものは彼の偽りない明徹さと旧市民道徳との大摩擦であり又彼の文学の大きい要素としての文人気質、そのポーズの桎梏であった。
 日本近代文学の発展の中心を二葉亭以来の純文学において眺めわたすとき、そこに
前へ 次へ
全89ページ中58ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング