生犀星氏の「兄いもうと」におくられたのであった。
 ところが、この金襴の帆を順風に孕ませた宝船、文芸懇話会というものの文学に対する性質の矛盾は、この一九三五年七月、文芸懇話会賞が与えられた直後、授賞者決定に当って審査員の投票では島木健作氏が選に入っていたにもかかわらず、公表されない特別の理由から室生犀星氏と取かえられたことが一般に知られ、佐藤春夫氏が脱退の意を示した事件によって、悉く明らかにされた。
 この事実は、文学の領域には前例のない事件として、当然諸方面から文化統制に対する反対が生じ、二年前プロレタリア文学の退潮、それに引つづく沈滞期に叫ばれたよりはその社会的色調を濃くした現実の姿で文学の危機が再認識された。
 文学の本質が、非人間的人間関係に対する抗議と批判との精神であることを改めて主張する必要に迫られ、これに応じて、横光氏の純粋小説論に連関して漠然両者の接近が予期されていた純文学と通俗小説との文学的本質の相異が改めて究明されるに至った。通俗文学と純文学との質の相異はただ生活と文学的現実の中で、必然と偶然とに対する解釈を異にしているばかりでなく、「両者の区別は文学の本質である『
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