の要求、単行本発表への欲求の背景となった経済的な理由、発表場面狭隘の苦痛等と照らし合わせて観察すると、先ず横光氏によって叫ばれた純文学であって通俗小説であるという小説への転身宣言の暗黙のモメントとして、その市場を、これまで同氏の作品をうけ入れることをしなかった尨大な発行部数をもつ大衆通俗雑誌や新聞に拡大する必要が感じられていたことをも理解される。
様々な方向と傾向から通俗小説と私小説との問題は論ぜられたのであったが、現実生活と文学とにおける偶然と必然との関係の解釈は指導的な方向を持たず、遂に中河与一氏の偶然文学論へまで逸脱した。現実を「不思議」なる諸相の逆転として見ようとするこの見解に対して、所謂大衆向きであっても而も社会の現実の必然を必然として客観的に描く「実録文学」という提案をしたのは『文学案内』による貴司山治氏であった。多難なリアリズムの問題、文学の真の意味での大衆性の課題の一部を、氏は題材そのものが歴史の中で持つ現実性の正当な闡明によって解決しようとしたのであった。大衆の生活に入りこんでいる最低の文化水準としての講談本、或は作者の好む色どりと夥しい架空的な偶然と客観的でない社
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