拡ったインドの仏教はもとのものとは多くの違った点を持って現れたし、日本において拡まった仏教は、インドの仏教とは礼拝の形式においてさえも違うということをかつてその道の人からきいたことがある。ある国の文化がそのままの形、そのままの内容で他のある国の文化を形づくるということのいいきれないのは、歴史が証明する通り、どこへも拡がらずにある国でだけ栄えて、拡がらないままに衰滅してしまった文化というものがある。古代エジプトの文化のある種のものなどはエジプトの王朝が亡びると共に亡びた。今日有名なピラミッドや、スフィンクスが、何故、あの砂漠の真中に打ちたてられたろうか? 古代のエジプトの王が、全人民を奴隷として働かし得たからこそ、あの巨大なピラミッドもスフィンクスも作り得たのであって、それがなぜ他の古代の王国の文化の中に拡がらず世界に幾つも、同じようなピラミッドができなかったかといえば、エジプト以外の処ではそのような文化を打ちたてるに必要な社会の条件がなかったからである。即ち当時にあってエジプトほど奴隷制度の発達した処がなかったからである。
以上のことからわれわれは何を結論として得て来るであろうか?「
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