が支配されているというが如きである。しかしながら、これは冷静に現実を観察すると一つの誤った考え方であることが分る。同じ今日においても世界は決して単一の時代精神に依って貫ぬかれてはいない。日本は「非常時」であるが、アフリカのホッテントットのところでは「非常時」はない。即ち「非常時」的精神に依って文化は支配されていないのである。ホッテントットの文化は、今日のホッテントットが、野牛を殺してその角を取り、それをヨーロッパ人に売って暮しているその生産の未熟な条件に応じて自身の文化を持っているのである。この事実によってみても、文化の根源をなすものは、ある時代精神であるということは誤りであることはあきらかであろう。
また文化はある国からある国へ、伝播されて発達するものであるという説をとなえる人がある。そういう人たちはイタリーにファッシストができたから、それが拡がってドイツのナチスになり、ドイツのナチスはイギリスに拡がるばかりか東洋の国々にもやがて拡がって来るであろうし、拡がって来るのが当然であるという論法を立てる。はたしてそうであろうか? 昔インドの仏教は中国に伝わり、日本に伝わった。然し、中国に
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