いているし、その農村の工業化の問題においても、専門家大河内子爵は、機械製造工程の発達した現在にあっては、安い賃銀の農村の娘が、たやすく、自動車の部分品をも作り得るから、農村工業化の強味はそういうところにもあると新聞に意見を発表している。
 この一見相反するように見える婦人の生活に対する観方を彼らはもっとも便利に縫い合わせる術を知っている。家が大事という封建的な立場に立った感情を婦人の心に強くめざめさすことは食うに食えなくなった家のために話にならぬほどの低賃銀で十三時間も働かせられたり、有毒な仕事にこき使われたりすることをも、忍耐強い日本婦人の美徳として自分自身満足するよう、たくみに利用されている。若い女から利潤をしぼり取る現実のしぼり手の姿を、家のためという言葉の雲のかなたに包みこませてしまうのである。ここにおいてわれわれはいかなる感情を「婦徳の輝き」に対して呼び起されるであろうか?

 今一つここに注意すべきことは、現在の「非常時」的社会の相の不安につれて、いわゆるインテリゲンチアに対する嘲弄が文学その他の文化の面に現れていることである。
 歴史はわれわれに実例を以て真に多数者の利害
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