は、現代においては農民自身の幸福のために、欠くべからざる協力者である都会の労働者と、進歩的な知識階級人とを文化的にはもっともおくれた農民から切り離すための役割しか演じていない。もし、農村の真の幸福が今日のままの有様で農民が暮すことの中にあるのならば、なぜ、近頃やかましく農村の工業化の問題が叫ばれるのであろうか? 矛盾はここにも現れている。
農村の工業化の問題でも、それを計画する人々の間では、農村の若い娘の労働力というものが、重要な計算に入れられている。昨今の婦人雑誌の内容を見ても分る通り、婦人の天職を家庭の中にあって良妻賢母であること、やりくりのうまい主婦であることに認める傾向は、近頃一層いちじるしくなって来ている。婦人の幸福は家庭にあり、家庭において婦人が婦徳を全うすることこそ日本文化の世界に誇るべき輝きであると論じ、婦人参政権運動の市川房枝女史も座談会の席上でもとの婦選運動は男性に対して行われたような点がなくはなかったが、この頃は婦人の特徴をよく理解した上で、問題を考えている点が進歩したといえましょうといっている。
ところが、他の一面に近頃ではいろいろの軍需工場に多数の女が働
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