@フランス映画は最近になって少しずつ公開されはじめた。「美女と野獣」、「悲恋」などは多くの観衆をあつめた。
 英国映画の公開も「七つのヴェール」をもってはじめられた。
 ソヴェト映画は「モスクヴァの音楽娘」が公開され、天然色映画「石の花」はテクニカラーの技術上の優秀なことで注目をひいた。
 アメリカ以外の外国映画の輸入はGHQによって免許制で行われている。
 輸出映画 一九四七年八月、民間貿易の再開につれアメリカ在住の貿易商松竹商会は一年間に百本までの日本映画買つけを発表した。これよりさき貿易公団では第一回輸出映画を選定し東宝製作の「東京五人男」を輸出した。この選定は必ずしも映画製作者の評価を裏づけとしているものではなかった。
 演劇 日本の演劇は、伝統的な「歌舞伎」と日本的な「新派」と一九二〇年代に入ってから日本に発展した「新劇」とがある。「歌舞伎」以外のすべての劇団は、劇場を失って困難している。日本の物資の事情では、新しい劇場の建築を不可能にしている。同時に、舞台装置、照明、衣裳等の物資的困難と闘っている。また、全般的にみて劇場関係者の生計は不安であり、観客は百パーセントの税に苦しんでいる。
「歌舞伎」は脚本のテーマを全く封建社会の悲劇の中にもっている。演劇として歌舞伎が持っている今日の生命は、古典として完成されている舞台の諸様式、古典的舞踊と歌曲とが演技の中に独特な調和をもっておりこまれていることなどである。歌舞伎の代表的ドラマの一つである「忠臣蔵」は、封建君主とその臣下の復讐の物語であり、日本の「武士道」の典型とされてきた。一九四五年八月以後この武士道ドラマはGHQによって上演禁止をされていた。ところが一九四七年歌舞伎座でこの「忠臣蔵」が公演された。そして特に皇后の一行がそれを観た。
 歌舞伎は今日の日本人の生活感情にとって主として絵画的な舞台の珍らしさで魅力をもっている。ドラマのテーマがあまり封建的であることは、まだ多くの封建的要素をのこしている一般人にも自覚されてきた。たとえばいい着物を着て歌舞伎を観ることをよろこんでいる若い女性も、徳川時代の男女が彼等の恋愛を死によって完結させようとした「心中もの」には批判を抱いている。
 新派 は、歌舞伎よりは新しくしかし新劇よりは古いという中間的な立場から、新しく発展することが非常に困難になってきている。新派は十九
前へ 次へ
全83ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング