の文化の実力は旺盛な状態に置かれていると云い得るであろうか。
春陽堂文庫に訳されているアルフォンス・ドーデの小説「ちび公」(プチ・ショーズ)は苦難な少年の成長の過程を物語って私たちの心をうった物語である。南フランスから出て来たドーデが巴里でそのような可憐ないくつかの小説を書きはじめた時分、小さな一人の男の子が書斎の父さんのところから、隣室で清書している母さんのところまでよちよちと書きあげられた原稿を一枚一枚運ぶ役をつとめた。ドーデはその回想の中に父の優しいよろこびをもってその時分の光景を書いている。その可愛いレオンが一九三六年には六十七歳でブルム襲撃の背後の人となるということを、小市民の善良さで終った小説家の父親ドーデに予想することが出来ただろうか。ドーデが、貧乏しながらこつこつと小説をかいていくらか出来た財力がレオンをそういう男に仕立ててフランスの敗れる一因をなす者として存在させることを、思っても見ただろうか。
今日の生活と文化は、こういう父と子の物語についても私たちに考えさせずにはいないものを示している。
この二三年来、日本の婦人たちの鏡台の上からコティの香水だの白粉だのが姿
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