今日の生活と文化の問題
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)擡《もた》げて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)へっつい[#「へっつい」に傍点]でも、
−−

 文化という二つの文字に変りはないようだけれども、歴史のそれぞれの時代で文化の示す様相は実に変化の激しいものがある。そして、文化が危期におかれるという現実もあり得るのである。
 大体私たちは日常の言葉として文化を云う場合、それはいつも人間生活の何かの進歩、何かの知慧の明るさ、醜いものより美しさに近づいたものを考えているのだと思う。昔ながらの煽げば煙たいへっつい[#「へっつい」に傍点]でも、幾らか改良を加えれば、それに文化という字をつけて文化竈と呼ぶようなものである。私たち人間の自然な心には、成長を歓ぶ心、進歩を求める欲求が深く潜んでいて、文化という表現に人々が我知らず籠めている内容には貴重な人類としての希望が語られているのである。
 文化の実質はそういう人間らしさに立っているものであるにかかわらず、或る時代の風潮としては、文化の欲求や文化の蓄積された成長の段階がそ
次へ
全21ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング