のは其処から自分の生活を切り放さなければならないでしょう。
 また一方、女性として必然に持たねばならぬ母というものに就いていえば、母にとっては子供は大きな心の対象となるもので、一方で自分の芸術のために、良人は越えることが出来るとしても、子供を本当に忘れ切ることは出来ないでしょう。例えば自分の書くものは、純粋の芸術品ではあるが、十二三の子供がそれを読んで果してどういう判断を下すであろうか、という感情上の危惧が、其処に起ってきます。
 次に女は毎日の実生活の上に於いて、家事上の事柄に力を浪費することも大きなものです。たとい女中を使ってするにしても、その中心になる仕事に対しては、主婦がこれを指揮しなくてはならず、従って家のことを忘れて白熱的の力で文芸に専念する場合、それは大きな邪魔となるものです。
 更に女の身だしなみということも、創作をする場合、かなり関係があります。女は昔から見られるものとして取扱われてきました。一度外出するにも髪形から衣裳まで整えねばならず、風が吹けば、髪が乱れる。伝統的というのか本質的というのか、とにかく女性にはこの外廻りの小さな注意が沢山いります。それらに対して出来
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