るだけ心配しなくてはなりません。この水の表面のような反射的な注意を持っていることは、心の中の深い落付きを乱だすものです。それを平静に保とうとするには、やはり男の知らぬ努力がいるのです。男はこういうことに対して、それだけのことを意識として経験しなくともよいでしょうが、女性はそういうことが或る程度まで反省的に取扱われなければなりません。その上で初めて落付いて仕事に向う気持にもなるのです。
 また時代というものに対しても、それから時代精神ということに就いても、本当にその時代に生存するには、前後及び終極の場所を見極めなくてはなりません。
 時代というものは一つの大きな道です。私共は現在歩いているその道をよく見詰なければならず、それと同時に自分の行くその前途をもよく見極めなくてはなりません。即ち本当の意味で時代に触れ、それを産むには、自分の中からその時代が発展して来なくては駄目で、本当にそうした心掛けで生活する人には、必ず其中に時代は産れて来るものです。それは丁度人間が原始時代から或る発達の経過を踏むと同じことです。万有は勿論、人間も文芸も、それと同じ一つの大きな道を通って来たものです。その各時
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