愛の葛藤も書け、そしてそれが批判される場合も、女性によって書かれたもの程つまらない好奇心を起させますまい。勿論、芸術品に対してそんな下劣な観賞者の言葉を気にする必要はないわけですが、この懸念が実際に女の心の中にあるのは、争われない事実であります。

          二

 仮りにそうしたデリケートな場合を想像するならば、此処に一人の女があって、その人が大胆な恋愛の葛藤を書いたとします。と、それに就いて、自分は自分の態度を信じ、良人もまたそれを理解していてくれる。然し、それが対社会的になって、一人の人間として社会に入って行くとなると、其処にいろいろ困難な実際上の出来事が待ち設けています。例えばその作品に対する作者の自由な態度を曲解して、その本当の意味でない、作者の毫も予期しない、不真面目な事件が起り易いことです。仮りに或る会社内の事を想像してみましょう。その中の女事務員、只単に女が放たれているという自由のために、男がそれを曲解して自由な交際が其処に始まったとします。と、これは真の女性の解放ではなく、その境遇がそういう交際を形作る機会を与えたに過ぎないので、従って本当に自分の立場を知る
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