ばかりでは仕事は出来ません――そうした女にのみ負わされているものが、いろいろ目前に積まれていることです。それを切り抜けるには男の知らない苦労、努力がいります。これらのものは過去の社会制度、組織、または生れながらにして与えられた性的関係――これは日本の女だけかも知れないが――女の個性の充分の発達を阻止しつつあるからではないのでしょうか。
 この芸術に専念する力を阻止するもの、今それをデリケートな問題として見るならば、生理的方面からは、女の持った細かい神経の動きが、生活感情に影響することによって、その時々の生活感情に捉われ易いことです。これは男よりも女の方が細かく、正直に、同一の物に向っても或る時は極端に悪く、或る時はこの上もなく可愛いという、感情の大きな動揺が波打つことによって、その本心が何処にあるかを知ろうとすること、それに就いては男よりも、女がもっと深く屡々《しばしば》反省する必要があるのです。それは女性に共通の一種の道徳観念とでもいうのでしょう。
 また一方から考えると、女は特別な貞操観を強いられることによって、その芸術が阻止されることになるのです。それは男性なれば極端な性欲或いは
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